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「SHOE DOG」と「ナイキを育てた男たち」

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今回はナイキの創業者フィル・ナイトが創業前から上場までを描いた自叙伝、SHOE DOGを紹介します。この本の発売後にBSで特集された番組「ナイキを育てた男たち~“SHOE DOG”とニッポン~」についても紹介します。

ナイキの創業の物語

大きめに本屋に行くと黒のカバーに金の文字でSHOE DOGと刻まれた本が並んでいるのを見た人も多いかもしれません。ナイキの創業者であるフィル・ナイトによる自叙伝で、500ページを超えるボリュームなのですが40万部を超えるヒットになっているそうです。

SHOE DOG(シュードッグ)

SHOE DOG(シュードッグ)

 

 出版元の東洋経済新報社では特集ページまで作る熱の入れようです。

store.toyokeizai.net

フィル・ナイトの曖昧な記憶を元にしていたり、誇張した部分も多々含まれると思いますが、創業前後から上場までの悪戦苦闘ぶりが赤裸々に語られていて、その語り口も相まって非常に面白い作品に仕上がっています。
オニツカの販売代理店として始まったという話は聞いたことがあったのですが、ナイキと日本の関わりが予想以上に深いことを知ることができます。この辺りはBSの特集番組がわかりやすくなっています。以下はその取材担当記者による紹介です。

www3.nhk.or.jp

www.msn.com

番組内では、当時のオニツカの開発担当がナイキ(当時はブルーリボンという社名)側からの提案を受けて開発したコルテッツの話をしたり、本書の中では日商岩井のスメラギ、イトーとして登場しているお二人が取材に応じています。
ナイキ側ではナイトだけでなく、あの「手紙魔」ジョンソンや車いすのウッデルも取材に応じてくれています。

この取材の中で特に印象深いのはアイスマン・イトーとフィルナイトが呼んでいた伊藤忠幸氏のエピソードです。本書の中の一つのクライマックスは口座を凍結されピンチに陥ったところを「日商が返済します」といってイトーがフィル・ナイトを、いやナイキを救ったところでしょう。この中ではスメラギが独断で社内規定を破ってインボイスの発行を遅らせていたことが書かれていますが、イトーこと伊藤忠幸氏も同様に社内規定を破っていたことが番組内で語られます。
「日商が返済します」といった金額は約1億9千万円でした。これは日商岩井の中では社長決裁が必要な金額なのですが、伊藤忠幸氏は独断で決済したために、これが問題となりました。。結果、伊藤忠幸氏はクビを通告されます。「権限規定なんか、無視してやっちゃたんですけども」とたんたんとした口調で語る伊藤忠幸氏、当時30代前半の年齢にして彼も人生をかけていたのです。その後、彼に気をかけた取締役の尽力でクビは撤回され日商岩井に残ることができたとのことです。

シュードッグな人々

フィル・ナイトは地元のオレゴン大学で陸上チームに所属、卒業後に陸軍での1年間の勤務を経て、スタンフォード大学大学院にでMBA取得しています。その後助言を受けて公認会計士の資格を取得し、会社を立ち上げながら、プライスウォーターハウスで働いたり、大学で会計学を教えることもありました。
本書を読んでいてわかるのは相当な読書家であること。特に各国の歴史・宗教・文化について詳しい上に、実際に世界中を見て回っているのも知識の深さを感じさせます。交渉する相手の国や文化を勉強する描写も良く出てきます。読書に関しては以下のようにあり、極限でのリーダーシップで自身がどうするべきかをよく考えてたことが伺えます。

私は大将、侍、将軍などについてできる限りの本を読んだが、中でも夢中だったのは私にとっての英雄3人、チャーチル、ケネディ、トルストイの伝記だった。暴力はまったく好まないが、極限状況でのリーダーシップについては興味があった。戦争は究極の極限状況だが、ビジネスもある意味戦争だ。ビジネスは銃弾のない戦争だと誰かが言っていたが、私も同感だ。
(1966: P128)

このように基礎的な学力、経営学・会計学や歴史などの知識、実行に移す行動力、自分たちを負け犬だという謙虚さ、これらだけでも並々ならぬモノがありますが、これに加え靴に対して強烈な情熱を持っています。タイトルでもあるシュードッグとは本書の中で以下のように言っています。

シュードッグとは靴の製造、販売、購入、デザインなどすべてに身を捧げる人間のことだ。靴の商売に長く関わり懸命に身を捧げ、靴以外のことは何も考えず何も話さない。そんな人間同士が、互いにそう呼び合っている。
(1971: P265)

熱中の領域を超え、病的とも言えるほど靴のことばかり考えてる人たちです。
フィル・ナイトはもちろんですが、このような人たちが多く登場します。中でも共同経営者となるバウワーマンと従業員第1号となるジョンソンは印象的です。

バウワーマンはオレゴン大学の陸上部の伝説的コーチで、フィル・ナイトも指導を受けた人物です。ナイキの創業前から独自にシューズの改良などを行うほど靴に情熱を注ぐ人物で、ナイキでもいくつかの靴ブランドの発明を行っている。初期にはオニツカの靴を分解し、アメリカ人に合うためにはどうすれば良いか徹底的に研究しオニツカに提案してコルテッツが誕生しています。
バウワーマンがエアソールの開発を聞いて駄目だねと言ってたことに対するフィル・ナイトの感想がシュードッグならではです。

私がエアソールを開発中だとうっかり漏らすと彼の様子が変わった。空気を注入したルディの発明のことをバウワーマンに話すと、彼はあざ笑ったのだ。「ぷっ。エアシューズだって。そんなものうまくいくわけがないだろ、バック」
彼の言葉から少し感じ取れたのは、嫉妬だろうか?
私はいい兆候だと思った。彼の中で競争心が再び芽生えてきたのだから。
(1977: P440)

バウワーマンに靴に対する情熱が戻ってきた様子を喜んでいます。1977年はバウワーマンは60代の後半に差し掛かってます。その少し前には衰えた描写もあります。しかし引退するよりも、靴に関わり続ける方がシュードッグな人々にとっては重要なのです。

そしてもう一人のジョンソンに関してはエピソードが事欠きません。ジョンソンも大学時代は陸上の中距離走者で、フィル・ナイトの誘いに乗り販売員となり、その後フルタイムの従業員第1号となります。自身でも靴を改良したり、販売店を任されますが、突然東海岸への理不尽な異動にあったりしますがめげません。面白いのは手紙に関するエピソードです。手紙魔とまで言われるほど手紙を出しまくっていたようで、最後に必ず励ましに言葉を求めるのですが、それをフィル・ナイトは無視し続けたそうです。更にはこんな記述があります。

いっそアパートを完全に引き払って、オフィスに移った方がいいのではという案が頭をよぎった。何せ基本的にそこで寝泊まりしているも同然で、プライス・ウォーターハウスとブルーリボンを交互に行き来する毎日だ。シャワーはジムで浴びればいい。
だがオフィスで暮らすなど、まともな人間のすることではないと自分に言い聞かせた。
そしてジョンソンから、オフィスで寝泊まりしているという手紙を受け取った。
(1967: P166)

経営層に励ましを求めても無視され続けるも、自分の仕事を今まで以上に邁進し続ける従業員、仕舞いにはオフィスに泊まり込む生活を送ってしまう。こんな人に出会ったことはありません。ジョンソンも靴に関わる仕事ができることが幸せだと考えていたのでしょう。

採用について

ジョンソンの後に続く2人目の従業員を探すところに以下のような記述があります。

私は、東海岸を任せられる人を雇うことにした。もちろん元長距離ランナーだ。
(1967: P148)

 「もちろん」というほど、ランナーであることが重要な要素であると考えていたようです(他の伝手がなかっただけかもしれませんが)。この初期の段階では、優秀な営業マンよりも靴(=自分たちの扱う製品・サービス)に対する情熱を持っている人が適任だし必要だと考えてたのでしょう。

それが10年経過して、色々な人を採用していく中で以下のような記述があります。

別に私が会計士や弁護士を偏愛しているわけではない。才能のある人間をどこで発掘すればいいのかわからないだけだ。
(中略)
頭の切れる人間を雇うことが先決であり、少なくとも会計士や弁護士なら難しい課題に対処できるだろうし、ここぞという試験にも受かるだろう。
これまで雇ったほとんどの者が基本的な能力を示してくれた。
会計士を雇うのは、計算ができるからだ。弁護士を雇うのは話が達者だからだ。だが、マーケティングの専門家や製品の開発者を雇ったところで、何が期待できるだろう。何もない。彼らに何ができるのか、できることがあるのかすら予想できない。ではそこらのビジネススクールの卒業生はどうか。誰も好き好んで靴を売ろうとは思わないだろう。しかもみんな経験はゼロだから、雇う側は面接での感触に賭けてサイコロを振るしかない。一か八かでサイコロを振っていられる余裕など、こっちにはないのだ。
(1978: P463~464)

靴に対して情熱があるかわからない人を雇ってきた中で、フィル・ナイトが到達した考えが会計士や弁護士なら戦力としてまだ計算しやすいということでしょう。マーケティングの専門家なども靴に対して情熱があるかわからない人の場合は、一か八かの賭けとなるというのが、シュードッグな人々の判断なのでしょう。

その他

 人が1日に歩く歩数は平均7500歩で、一生のうちでは2億7400万歩となり、これは世界一周の距離に相当する。シュードッグはそうした世界一周の旅に関わりたいのだろう。
 (1971: P266)

会計士でもあったフィル・ナイトはこうした数字で考えることも意識していたのではないかと思われます。例えば平均より多く歩く人たちはどんな人たちか、それはどんな理由で多くなっていて何歩くらい多いのかとか、2億7400万歩のうちどれだけナイキは貢献できるか、履いてもらう歩数を増やすにはどうしたら良いかといったものです。
これは現在でも同じで単純に靴の売上高だけを考えている人には出てこない発想でしょう。

貴重な教訓を得た。1足のシューズに12もの新機軸を取り込んではいけない。デザインチームに対してはもちろん、シューズにも多くを求め過ぎたらしい。私たちは「製図版に立ち返ろう」を合言葉に、ワッフルメーカーを何個もダメにしたバウワーマンのことを振り返った。
(1978: P470

靴というある程度の型が決まっている製品に関して、新たな機能を多く入れ過ぎたことを失敗だったと振り返っています。多くの新機能を取り込むことに注力し過ぎることで、どこかに無理や見落としが発生したのかもしれません。これは靴以外の製品やサービスならどうでしょうか。自分たちの行う事業で当てはめて考察してみるのも良いかもしれません。

問題はどうやって中国に進出するかではない。すでに一部の会社が進出を予定しており、そうなれば他社も続くだろう。問題はどうやって最初に乗り込むかだ。最初に進出すれば数十年は有利に立てる。そうすれば中国の製造部門だけでなく、中国市場や中国の政治指導者との関係も有利に運ぶことができ、大きな成功を見込める。中国についてミーティングを重ねた最初の頃、私たちは常にこう言っていた。あの国には10億人の足があると。
(1979: P484

これはこちらで紹介したようなマーケティング22の法則の一番手の法則に近い考え方です。中国という10億人の足がある巨大市場で、一番に進出することがどれだけ有利になるか、重要であるかを意識していたことが伺えます。

ジョンソンは言う。「つまり、この新製品のナイキはまったく未完成で、はっきり言えば、そこまで良い代物じゃないのに、君たちは買おうとしている。何がそんにいいんだ?」
相手は笑った。「君たちブルーリボンとは何年ものつきあいだから、君たちが正直なのはわかってる。他の連中はデタラメだけど、君たちはいつもズバリ本当のことを言ってくれるから、この新製品、ナイキっていうんだっけ、これが当たると言えば信じるさ」
ジョンソンはブースに戻って頭をかいた。「本当のことを言うべきなんだな」
(1972: P288

これはこちらで紹介したようなマーケティング22の法則の正直の法則に近い考え方です。この当時のナイキにはお客にとってポジティブな要素はあまりないのかもしれませんが、正直なことが評価されています。このあたりは靴に対して嘘をつけないそれまでのシュードッグな人々の姿勢が大きな信頼を得ることになったのでしょう。

まとめ

今回は「SHOE DOG」と「ナイキを育てた男たち」の紹介でした。

以上

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