今回はマーケティング本の名著に上げられる「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」を読んでの我々なりの解釈を紹介します。

- 作者: アルライズ,ジャックトラウト,Al Ries,Jack Trout,新井喜美夫
- 出版社/メーカー: 東急エージェンシー出版部
- 発売日: 1994/01/01
- メディア: 単行本
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法則が示す心の中はどういうものか
本書の法則で示される全体イメージは以前提示しました。
今回はこの右側部分の心模様を法則群ではどのように示しているか見ていきます。前回はカテゴリー関連でしたが、今回はそれ以外のものについて説明します。主に触れる法則としては以下になります。
- 第6章:独占の法則
- 第11章:遠近関係の法則
- 第21章:成長促進の法則
心の中のフレーズ
前回、心の中のカテゴリー図を見ていきましたが、今回は以下のカテゴリー図イメージ(以下、カテゴリー図とします。)を使っていきます。
いくつかの製品がフレーズと結びついている状態になっています。このフレーズは顧客が製品に対してイメージする言葉やコンセプトです。顧客の心の中では、製品の名前だけでなくそれに対応するフレーズが結びついてるのです。
ただし全ての製品にフレーズが結びついてるわけではありません。企業は顧客の心の中に製品名だけでなくフレーズも合わせて覚えてもらうような活動が必要です。また梯子の法則でも説明されていますが、顧客は購買段階が進んでいくとカテゴリーの中でランク付けをより明確にしていきます。通常はフレーズが結びついていなくても、購買候補となる製品となればそのランク付けの過程で何らかのフレーズを結びつけていくとも言えます。
購買段階に入る前の通常のときからランキングで上位にくる製品はそのフレーズと強力に結びついていると言えますし、フレーズが協力に結びついてるからこそランキングで上位にくるとも言えます。どちらにしろ競合製品があるフレーズと強力に結びついてる場合、その同じフレーズを自社製品に結びつけるのは非常に難しいので止めるように言っています。
自分の競合会社が顧客の心の中にある言葉を植えつけていたり、あるポジションを占めている場合に、その同じ言葉を植えつけようと試みるのは無駄である。
(第6章:独占の法則 P64)
既に独占されているフレーズを自社製品に結びつけるようなマーケティング活動は無駄であり、それどころかそのフレーズを独占している競合製品と比較された結果、競合製品をより一層際立たせることになると言っています。
あなた方がよくやる間違いは、競合相手の商品コンセプトの重要度を高めることによって、相手の立場をいっそう強固にしてしまうことなのだ。
(第6章:独占の法則 P65)
見込客に自社製品のフレーズを結びつけ独占するために、または独占したフレーズを維持するために、各企業はマーケティング活動を行っているとも言えます。しかし独占の法則を犯し莫大なマーケティング費用を無駄にしていると言っています。
カテゴリー図では製品⇒フレーズの順番に記載いしていますが、顧客の心の中でフレーズから製品をイメージしてもらえれば、そのカテゴリーでは一定のポジションを得たと言えるかもしれません。心の法則の章では、「顧客の心の中に入り込むこと」が重要であるとされてましたが、心の中に入りフレーズを植えつけることがより重要なのです。ただしフレーズはプラスだけでなくマイナスのモノとなっている可能性もありますし、顧客によって受け取り方は変わってきます。例えば「高機能」がある顧客にとっては「機能過多」といったものです。ターゲットする顧客を絞り込み、心の中を分析しフレーズを決めていく、維持していくことが必要となります。
マーケティング活動の効果と時間
マーケティング活動により効果はどれほどの時間がかかるか。マーケティングには長期目標が必要で、その目標に沿ってマーケティング活動を計画する必要があると言っています。当り前のことを言っているいようですが、実際には長期目標に沿った活動ができていないことがあります。いくつかの法則の部分で指摘していますが、これは長期的なマーケティング目標より、短期的な財務目標を達成する誘惑に抗うことができないためです。
とりわけ次の四半期の決算報告書しか頭にないマネージャーにとってはそうである
(第11章:遠近関係の法則 P115)
会社組織は四半期毎の決算報告を一区切りにして生きています。その区切りで内部的には社員の成績を評価し、外部的には投資家などのステークホルダーから評価される。自身の評価、外部の圧力などにより財務目標を達成するために行動します。このとき行った活動は短期的には成功に見えても、長期的には失敗を招くことがあると言っています。
多くのマーケティング活動が同じような現象を示す。長期的なマーケティング効果は、短期的な効果の正反対である場合が多いのである。
(第11章:遠近関係の法則 P110)
このわかりやすい例が定期的なバーゲンセールです。バーゲンセールの期間は売上高をアップさせることができるでしょう。ただしその期間を過ぎると売上高は落ち込むことになります。そして、また売上を取り戻すためにバーゲンセールを行っていきますが、徐々に効果は薄れるでしょう。
これを心の中のフレーズで考えてみると、どうなっているでしょうか。バーゲンセールを繰り返すうちに製品に対して「バーゲンセール」や「安売り」といったフレーズが結びついていきます。こうなると通常時は購買の対象から外れてしまい、バーゲンセールのときのみランクの中に入るようになります。しかも「バーゲンの時に安く買う製品」といったイメージになると、他のフレーズを結びつけるのがより難しくなってくるでしょう。
短期的な誘惑は他にもあります。一時的な流行もその一つです。
ファッドは短期的現象であり、それなりに利益をもたらしてはくれる。しかし、会社に大きく貢献するほど長続きはしない。
(第21章:成長促進の法則 P208)
現象の時間的な長さから、ファッド、ブーム、トレンドなどと分類のされたりします。ファッドやブームと呼ばれるものは一時的なもので、成功するマーケティング計画はトレンドの上に築かれると言っています。トレンドにするためには心の中にフレーズを結びつける必要があります。それができない場合、ファッドやブームとして終わるでしょう。むしろファッドのことは無視した方がいいとさえ言っています。
長い時間をかける活動
短期的な効果より、長期的な効果を狙った活動にはどのようなものがあるでしょうか。
コンテンツマーケティングはここ数年で重要なキーワードになってきています。これまでは質を問わない大量のコンテンツを配信してトラフィックを集める手法がありましたが、顧客にとって価値のある質の高い情報をコンテンツとして提供することに重きを置く企業が増えています。良質なコンテンツがあるからといって、すぐに効果が出るわけではありません。コンテンツマーケティングへ取り組むこと自体が、長期的な視点とマーケティング目標を手に入れることができ、間違った短期的な活動の抑止につながるかもしれません。
IT業界ではエバンジェリストと呼ばれる人たち出てきています。
マイクロソフトではエバンジェリストという役職を作り、自社の製品や技術を深く理解してもらうために、主にITエンジニアを対象にしたセミナー、ハンズオンデモ、情報発信など様々な方法で啓蒙活動を行っています。このエバジェンリストは啓蒙活動により、ITエンジニアに最新技術の利点や動向、価値を伝えます。この中にはマイクロソフトの製品以外の情報も含まれます。IT技術全体の新しい価値を伝えITエンジニア全般を一つの方向へ導き、結果自社の製品を利用してもらう状況を作るのです。
例えばアジャイルやDevOpsと言ったキーワードをブームではなくトレンドに、トレンドから更に定着へと導くために長期間の啓蒙活動を行っていると見ることができます。これらのキーワードが心のフレーズとしてITエンジニアに浸透した結果、顧客が自社の製品とフレーズを結びつけ、製品を利用する機会が増える可能性があるのです。
カゴメの社内制度にオムライス検定という取り組みがあります。
カゴメと言えばケチャップと言うほど強力なポジションです。ただしケチャップは基礎的調味料のため売上高の急激なアップは見込みにくい製品です。そこでカゴメは地道な手段に出ます。売上アップを目指すのにケチャップではなく、ケチャップを使う料理を広めようと発想します。しかも対象は自社の社員に対してです。2010年より社内資格としてオムライス検定1級・2級・3級という検定を創設し、社内に浸透させました。まだ社外の人間はその検定を受けれないようですが、オムライススタジアムなどの外部イベントに広がっているようです。
これは短期的な効果を狙っている場合、なかなか生まれない発想です。またドッグフーディングにも近い発想で、さらに社員は自社製品に対してより愛着を持つことでしょう。
法則で書かれたことのその他考察
とりわけ次の四半期の決算報告書しか頭にないマネージャーにとってはそうである
(第11章:遠近関係の法則 P115)
人事評価の軸が売上高などの財務的なものが重要な部分を占める場合、それらが長期的な目標より優先されてしまうことがあります。そして心の中を考慮しないマーケティング活動は将来的には損失を招く可能性がありますが、どうすればこのようなことを防げるでしょうか。
長期的なマーケティング目標はあるか、それが共有されているか、財務的な目標との兼ね合いはどうなっているか、社員にはどう認識されているか。そして間違った活動を行う前に止めるにはどのように仕組み化すれば良いでしょうか。
会社はファッドをトレンドと取り間違えて、ギアを高速に入れる場合が多い。この結果、会社は過剰なスタッフと多額な生産設備、それに流通ネットワークを抱えて立ち往生することが少なくない。
(第21章:成長促進の法則 P208)
このように取り違えるとファッドが消滅したとき、財務的に大打撃を受けます。
需要が高まったとき、それが短期間だけの需要となるファッドやブームなのか、数年は続くトレンドなのか、見極めることができるでしょうか。
知覚の法則で「自分自身ではなく、他の人の知覚をもとに購入決定する」と言っています。製品や業界の特性など様々な条件が関係するでしょうが、製品を購入した顧客が他からの影響だけの理由で購入している場合、それはトレンドではなくファッドやブームで終わる可能性があるでしょう。
まとめ
今回は「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」の心の中のフレーズに関連する法則の紹介でした。
以上
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