今回はマーケティング本の名著に上げられる「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」を読んでの我々なりの解釈を紹介します。主に心の中について法則の説明を見ていきます。

- 作者: アルライズ,ジャックトラウト,Al Ries,Jack Trout,新井喜美夫
- 出版社/メーカー: 東急エージェンシー出版部
- 発売日: 1994/01/01
- メディア: 単行本
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法則が示す心の中はどういうものか
本書の法則で示される全体イメージは以前提示しました。
今回はこの右側部分の心模様を法則群ではどのように示しているか見ていきます。主に触れる法則としては以下になります。
- 第2章:カテゴリーの法則
- 第7章:梯子の法則
- 第8章:二極分化の法則
- 第10章:分割の法則
心模様はどのようになっているか
22の法則の中で、心の状態についてはいくつもの法則で触れられています。それだけこの法則群の中で重要な考え方となっています。まずは以下のカテゴリー図イメージ(以下、カテゴリー図とします。)を見てみましょう。
簡単化のため、製品とカテゴリーだけがある状態とし、これらの状態について考え方を解説していきます。
まず顧客の心の中では製品はたいていの場合、何らかのカテゴリーに含まれているものとされています。そしてそのカテゴリー内での位置が非常に重要であるとしています。そしてこのカテゴリーは自分たちで作ることもできると言っています。
あるカテゴリーで一番手になれない時は、一番手になれるカテゴリーをこしらえよ
(第2章:カテゴリーの法則 P26)
カテゴリーの種類は提供する製品・サービスにより、色々な考え方があるでしょう。例えばブログで考えてみましょう。ブログでは何を書いても良いですが、一部特定のジャンルに絞って書いている人達がいます。グルメブログ、書評ブログといった形でジャンルを絞るのは、「ブログ」カテゴリーから自らのブログに別のカテゴリーを意味づけ「○○ブログ」カテゴリーにこしらえたと見ることができます。
カテゴリー内でランク付けをしている
心のカテゴリーの中はどのようになっているのか、上のカテゴリー図のカテゴリー2を見て下さい。製品が上から下に並んでいますが、これはカテゴリーの中で各製品をランク付けをしているのです。
顧客の心の中には、購買決定をするにあたって用いる序列尺度が存在する。
商品のカテゴリー毎に、顧客の心の中に商品の梯子が存在するのである。
(第7章:梯子の法則 P70)
通常はカテゴリー図のカテゴリー1のように、製品はカテゴリーの中で綺麗に整理されていない状態ですが、そのカテゴリーの製品を買おうとする段階では序列されたランク付けを行っていると説明しています。
ランキングの中にはいくつの製品があるか。梯子の法則の中では自己関与度の高低で傾向があり、日用品や趣味嗜好品などは関与度が高くて、ランキングには多くの製品がある傾向で、めったに買わないモノに関しては製品は概して少ないとしている。また平均的な人間の頭脳では一度に7個以上のモノを処理できないという話を紹介しています。ランキングの中に7個の製品が限界であると考えると、ターゲット顧客の中で少なくとも7個までの候補に入らないと勝負にすらならないということになります。
このランキングの中の製品は次第に減っていくと言ってます。
初めのうち新しい商品カテゴリーの梯子には、多数の段がついている。ところが次第に、その梯子が二段式梯子に変わっていく。
(第8章:二極分化の法則 P80)
上のカテゴリー図のカテゴリー3のように、次第に多くの範囲を2つの製品が占めていくようになるとのことです。例えば、日用品などでいくつか試したり評判を聞いた結果、再購入するのが特定のモノに偏っていく製品があります。また会社である業務のシステム開発を発注する場合、RFPを複数社に出しておき、一次、二次選考と社数を絞っていく過程も、この二極分化の法則の1パターンという見方もできそうです。
二極分化の法則はカテゴリーの中の時間経過の話でしたが、カテゴリー自体が時間経過により分割されていくと言ってます。
時が経つにつれて、このカテゴリーはいくつかに分割されていく。
(第10章:分割の法則 P100)
時間経過と共にカテゴリーが必ず分割されるかというとその製品の需要や特性によると思いますし、また既に分割しきって分割が終わったカテゴリーという考え方もできるでしょう。またカテゴリーの性質についても触れています。
おのおののカテゴリーは、区分けされた、個別の存在である。各カテゴリーには、それぞれの存在理由がある。
(第10章:分割の法則 P102)
カテゴリーは分割されこそすれ、結合することはないのだ。
(第10章:分割の法則 P103)
カテゴリーにはそれぞれの存在理由があるからこそ分割されるので、これらが結合することはないと言っています。これは存在する理由が弱くなったり無くなれば、そのカテゴリー自体が消滅したり結合することができるとも考えられます。
どのようにカテゴリーするか
そもそも心の中にあるカテゴリーとは何か、一般的な製品の分類も一つのカテゴリーでしょう。我々の解釈ではその他に「○○するとき」や「○○したいとき」など場面や感情でもカテゴリーとなると考えています。これらもカテゴリーとして顧客の心の中を考えてみると製品は一つのカテゴリーだけではなく、色々なカテゴリーに入っていることも考えられます。また製品の成長や環境への対応により、当初は含まれていなかったり存在していなかったカテゴリーに入ってくるといったことも考えられます。
カテゴリーの変化
ミツカンの味ぽんを例に考えてみます。味ぽんは当初、「水炊きのつけだれ」をメインターゲットとして販売されました。言い換えると「水炊き」カテゴリーからスタートしたということです。マーケティングの基本的な考え方として絞り込む/ターゲティングというものがありますが、「水炊き」というとこまで絞り込んだと見ることができます。
しかし市場の壁にぶつかります。水炊きの習慣のある関西では好調でしたが、寄せ鍋などつけだれがなくてもよい味付け鍋が多い関東では厳しい状況でした。そこで地道に味見などしてもらい徐々に販路拡大をしていき、水炊きに限らず「鍋調味料」として関東でも認知されるようになりました。言い換えると「鍋物調味料」カテゴリーにも入った、または変わったということです。
「鍋物調味料」として広がった後、新たな壁にぶつかります。鍋料理は季節もののため冬場以外売れず、西洋化・核家族化の進行で鍋料理の機会が減少していました。ここでミツカンの助けとなったのが、思わぬ顧客の声でした。「我が家では、味ぽんを餃子に使っています。」顧客の中に味ぽんを鍋以外に使用しているというのです。これを受けてミツカンは味ぽんの利用方法を徹底的に調査、おろし焼肉など味ぽんの色々な使い方をCMなどでPRして、年中売れる「万能調味料」としてヒット商品となりました。
この事例で興味深いのは自社の製品を「鍋物調味料」カテゴリーと位置付けていましたが、顧客はそれに縛られない使い方をしていたということです。ミツカンはそこに注目し味ぽんを「万能調味料」カテゴリーとして顧客に認知させることに成功したのです。「鍋物調味料」などカテゴリーが頭に固定され、そこからの発想だと中々出てこない使い方やアイデアが、製品を実際に使用している顧客は自由に発想して使ってたりすることがあることを示唆しています。自社製品を日常的に利用するというドッグフーディングに通じる考え方でしょう。
また「ポン酢」というと、この味ぽんをイメージする人が多いようです。厳密には味ぽんはポン酢醤油ということになるようですが、味ぽんというブランドがポン酢というカテゴリーを代表し顧客の中で結び付いてるのです。50年以上続くブランドの力強さを感じます。
カテゴリーの掛け合わせ
スターバックスコーヒー(以下、スタバ)を例に考えてみます。スタバを良く利用する顧客の心の中には「コーヒー」や「喫茶店」カテゴリーがありスタバがランクインしてるのでしょう。スタバが打ち出したコンセプトに居心地が良くくつろげる空間としてサードプレイスというものがあります。これが顧客に効果的に知覚された結果、「くつろぎたいとき」カテゴリーというカテゴリーの中にスタバがランクインします。顧客によってはスタバによって「くつろぎたいとき」カテゴリー自体が作成された場合もあるかもしれません。ー
このような状態の顧客の場合、「コーヒーをくつろいで飲みたいとき」はスタバが選択されやすくなります。このように別系統のカテゴリー(「分割の法則」により分割されたカテゴリー同士ではないカテゴリー)を掛け合わせて顧客を掴めると非常に強力です。更に進んで「くつろいで、コーヒーを飲みたいとき」と変化すると、ほとんどスタバが選択される状態になるでしょう。顧客によっては「くつろいでコーヒー」カテゴリーができてるかもしれません。
ちなみに「第5章:集中の法則」から考えると、スタバは「くつろぎの空間」というコンセプトを顧客に植えつけ、受け入れられた結果、競合は真似できずに大成功したという見方をすることもできます。
法則で書かれたことのその他考察
あなたが新製品を開発するとき、真っ先に問題にすべきことは「この新製品は競合商品よりどこが優れているか」ではなくて、「どこが新しいか」ということである。言い替えれば、この新製品はどのカテゴリーで一番手かということだ。
(第2章:カテゴリーの法則 P27)
自社の新製品が既存製品の延長線上の製品と顧客に認知された場合、「これまでと何が違うのか」というところに焦点があたり、その説明が必要になる。新しいカテゴリーと認知されれば、「何が新しいか」を中心にして営業活動ができる。対面営業やプレゼンを行う製品の場合、打合せ時間に1時間与えられたとして、5~10分(特に最初の方)を「これまでと何が違うのか」の説明や質疑応答に費やすのは、そうでない場合と比べて営業コスト/成果に大きな差が出るでしょう。
自社の新製品を「新しいモノ」として顧客の心に植え付け認知させ、既存製品を「古いモノ」と認知させることでより効果があるでしょう。ただし「古いモノ」の既存製品には競合他社だけでなく自社製品も含まれることも覚悟する。また他者によって自社製品が「古いモノ」にされるのを防ぐにはどうすれば良いでしょうか。
カテゴリーの話になると、顧客は心を開くのである。新しい物にはだれもが興味を抱く。どこが優れているかに関心を寄せる人はほとんどいない。
(第2章:カテゴリーの法則 P28)
カテゴリーの話ではないが、コピーライティングの手法にも似たようなものがある。既存製品をリニューアルの際に新しいモノをイメージさせるフレーズを使うを手法です。「新、○○」「新しい○○」「○○、始まる」「○○、誕生」といったのが代表例です。
新しいと思えるモノに顧客は反応しやすくなっていますが、実際に顧客が認知した結果「新しいモノ」と感じられないと期待値とのギャップからマイナスのイメージになることもあるので注意が必要です。
顧客はどの情報を受入れ、どの情報を斥けるかを決めるに当たって、自分なりの梯子を使う。一般に心の中は、当該カテゴリーにおける自己の商品の梯子に合致する新しいデータのみ受け入れる。ほかのものはすべて無視される。
(第7章:梯子の法則 P72)
これらはAIDMAやAISASのInterest(関心)以降の段階にいるかいないかで受け取り方が違うと解釈できます。顧客の心のランクに入ってるか(Interest以降の段階)で受け止め方や効果が大きく違うことになります。行おうとしてる活動が自社製品が心のランクにない顧客に向けてのものか、既にランク付けされた顧客に向けてのものか、またランクの中で位置づけはどこの顧客かなど、それぞれの対象に向けて適切な活動になっているかを考える必要があるでしょう。
「効率化」というキーワードのもと、どちらの顧客もターゲットにした(つもり)のマーケティング活動を行ってしまい、なかなか成果が出ないことがあります。成果が出ていない場合、ターゲットを明確に絞りこんで活動するのが良いですが、わかっていても実行できないことが多い。これらを上手く回すには、どのように仕組化すれば良いでしょうか。
マーケティングは長期的視野でとらえれば、競争は二大主役(一般的には、古くからの信頼されているブランドと新進ブランド)の間の全面戦争に収斂されていくのが普通である。
(第8章:二極分化の法則 P80)
製品や業界の特性などにより時間のかかり方が違うと本書でも指摘はしていますが、現実の様々な市場の製品や業界を見てみると、2つに絞られていないものの方が多いと思えます。「この法則は間違っている」と簡単に考えることもできますが、このような場合は「この法則は正しい」と考えてなぜ現実はそうなっていないかを市場や製品ごとに考察すると何か気付きがあるかもしれません。法律や制度などの市場原理は違うルールによる影響、地域などの属性を絞り込むと実は二極化しているなどカテゴリーの仕方/見方の問題、まだまだ成長市場などで参入企業が生き残れる市場の状況、設備投資の額が大きく市場への影響までの時間がかかる製品、など。
自社の製品のカテゴリーについて、これらの要因(おそらく複合的なものでしょう)が理解できてると、自社の戦略に役立てることがあるもしれません。下記でも触れますが通常、第三位以下の生き残っていくのが厳しいポジションです。上位二社以外でも生き残っていける要因が理解できていれば、それに沿った戦略をとることで挽回するチャンスがあるかもしれません。
成熟産業にあっては、第三位というのは、維持するのが難しいポジションなのである。
(第8章:二極分化の法則 P82)
成熟した市場においては、第二位と大きな差のある第三位は非常に厳しいポジションである。ナンバーワンやナンバーツーの行える有効な活動は色々あるが、それより下となると有効な活動は限定されてくる。事例として書かれているようにジェネラル・エレクトリックはジャック・ウェルチのCEO時代から事業を存続させる条件として、その業界でナンバーワンかナンバーツーになることとしているのは有名です。家電部門など同社にとって歴史が長い創業部門であろうが例外なく売却の対象となっています。
また自社の既存製品や新製品の市場は成長産業、成熟産業か、あるいは衰退産業のどこか。市場の現状分析はある程度行っていても、成熟産業に到達するまでの時間・猶予はどれほどあるかなどは組織での仮説や共通認識がないことが多い。「気付いた時には手遅れ」といった状態にならないようにするにはどうしたら良いでしょうか。
業界のナンバーワン企業が新しいカテゴリーで異なるブランドを出すことを思い止まるのは、その結果、自社の既存のブランドがどうにかなるのではないかという恐れからである
(第10章:分割の法則 P107)
既存ブランドの関係者の反対やカニバリを恐れてしまい、出さない理由を探し出してしまう。また出したとしても既存ブランドに配慮、考慮した中途半端なモノであったりしては成功しない。
類似カテゴリーで複数ブランドはネスレが良い例でしょう。ネスレ日本のブランドサイトは以下です。
ネスレはグローバル企業ですが、日本のブランドサイトだけでもチョコ菓子(キットカット、エアロ)、キャットフード(モンプチ、フリスキー)、ミネラルウォーター(コントレックス、ペリエ)といったブランドが記載されています。
近年目立つのはIT企業による類似カテゴリーの競合買収です。フェイスブックはメッセンジャーと競合のWhatsUpを、アトラシアンはJIRAと競合のTrelloを買収しています。これらは買収後も独立したブランドとして残っています。
まとめ
今回は「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」の心の中のカテゴリーに関連する法則の紹介でした。
以上
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