今回はマーケティング本の名著に上げられる「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」を読んでの我々なりの解釈を紹介します。
マーケティングの教科書
「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」は1994年に発売されてますから20年以上前に書かれたもので、マーケティングの教科書として紹介されることもある本です。実際、「星野リゾートの教科書」で教科書として紹介されていて、その活用方法が書かれていました。

- 作者: アルライズ,ジャックトラウト,Al Ries,Jack Trout,新井喜美夫
- 出版社/メーカー: 東急エージェンシー出版部
- 発売日: 1994/01/01
- メディア: 単行本
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非常に読みやすくなっていて、どんどん読み進めることが可能です。色々な事例を紹介しているところも良いですが、20年以上前のアメリカでの事例なので企業名ではピンとこないところもあります。記載されている法則と反することを実際に企業が行っていて、それが原因で失敗していると強調します。最後に「本書を終えるにあたっての警告」として、これらの法則を読者の企業に適用しようとする場合の危険について警告しています。これまでのやり方を全否定されると感じてしまう勢力から、疎まれるだろうと。
この手の教科書は書かれている内容を知識として頭に入れるだけでは勿体ない。自分だったらどうするかなど自分事として考えたり、法則と書かれていることが本当かを実際の世界で考えてみたり、示唆に富むセンテンスも多いのでそこから自分で問いを立ててなぜなぜと考えてみたりと、思考をどんどん広げていくことで大きな収穫を得られると思います。本書では「○○の法則」となっていますが、この手の法則・ルール系の本はその内容が正しいと仮定とし、法則に沿っていないように見える現実の事象を考えて何故法則に沿っていないかを考えてみたり、法則を疑いどのような条件でその法則は破れるか、逆にどのような条件で法則は正しいかを考えるのが思考を深めるパターンです。
そこで我々の場合、どんなことを考えたかを何回かに別けて紹介していきたいと思います。
中心となる法則
本書では全部で22章あり、各章で1つの法則が説明される構成となっていますが、各法則は完全に独立しているわけではなく相互に関連している部分もあります。我々なりに解釈すると、これらの法則の中で中心となっていると考えられる法則は以下の2つです。
- 第3章:心の法則
- 第4章:知覚の法則
この2つの法則についてまずは考えてみたいと思います。
心の法則は知覚の法則に続く法則である。
(第3章:心の法則 P35)
とありますので、まずは知覚の法則を見てみましょう。
本書の指摘する知覚とその法則とは
知覚の法則の副題として「マーケティングとは商品の戦いではなく、知覚の戦いである。」として提示しており何度も強調されています。そして著者の言いたいことはこの言葉に集約されています。
客観的な現実というのは存在しないし、事実というものは存在しない。ベストの商品などありっこないのだ。マーケティングの世界に存在するのは、ただ、顧客や見込客の心の中にある知覚だけである。知覚こそ現実であり、その他のものはすべて幻である。
(第4章:知覚の法則 P38)
この「知覚」とは何でしょうか。我々は顧客が認知することで顧客の心の中で築かれる事物やその認識といった解釈をしました。これは感情的なものや感覚的なものも含まれます。そしてこの「知覚」はそれぞれの認識・心の中にあるので、事実というものは存在しないと指摘しています。なのに多くの企業は事実の確認に莫大な予算を割いていると。
また「商品の戦いではない」というのは、優れた商品が必ず勝つというわけではないという警告です。
マーケティング計画の主役は商品であり、商品の持つ価値によって勝敗が左右されるという誤った前提に基づいている。
(第4章:知覚の法則 P40)
これは必ずしも優れた商品が勝つわけではないのに、多くのマーケティング計画の内容が「我々の商品は優れています!」というものになってしまっているという指摘です。
心の中で知覚がどのように形成されるかを研究し、マーケティング計画の焦点をこうした知覚に合わせることによってのみ、あなたは基本的に間違っているご自分のマーケティング上の発想を正すことができる。
(第4章:知覚の法則 P40)
本書では知覚することで顧客の心の中はどのようになっているか、どのような状態にすれば勝つことができるかを色々な法則で説明しています。
知覚から心の法則へ
心の法則の章では、「顧客の心の中に入り込むこと」が重要であるとされます。これはどいうことか。顧客に知覚・認知された状態だけではその製品について忘れ去られることもあります。知覚・認知されたときに、顧客の心の中に入り込み継続して存在し続けることが重要であるということです。「心の法則は知覚の法則に続く法則である。」とはそのような意味だと解釈できます。
知覚の法則と心の法則はマーケティングの購買行動モデルとして説明に用いられる、AIDMAやAISASのAction(購入)の前までの部分に対応していると解釈できます。
法則の描く全体像のイメージ
本書では22の法則を説明されていますが、上記の2つの法則を中心にして考えて解釈したイメージは以下のようなものになります。
顧客は自社や外部から絶えず多くの情報にさらされています。一部の情報は無視され、一部の情報は知覚・認知されます。自分にとって興味のある情報は知覚・認知されやすいでしょう。その中で心・マインドの模様・あり様が形成されていきます。
この中で、自社のこと知覚・認知してもらう活動を「マーケティング活動」とし、その結果、心・マインドの模様(「心模様」)に及ぼす影響を「マーケティング成果」と定義しました。本書の各法則の説明では色々な要素を含んでいますが、今回の2法則以外をこの定義を軸にして次回以降説明していきたいと思います。
このイメージ図はある一時点を表したものです。時間経過と共に心・マインドの模様は変化していきます。これは自社だけでなく他社や外部環境も大きく影響するでしょう。また「マーケティング成果」はプラス面だけではなくマイナス面も含まれます。
法則で書かれたことのその他考察
あるマインドがすでに出来上がっている場合は、それが変わることはまずありえない。マーケティングにおいて最も無駄な行為は、人の心の中を変えようとする試みである。
(第3章:心の法則 P35)
マインドは短期的には変えることはできないものである。特にマイナスのイメージを自らのマーケティング活動で変えることはできない。よって既存のイメージを変えるように努力するのではなく、新しいイメージを与えることで結果としてイメージが変わるようにする方がマーケティング活動としては良い。
「ブラック企業」というイメージがついた和民が、和民ブランドから別ブランドにすることで2018年の上期は4期ぶりの黒字となっている。
あなたが他人に強い印象を与えたい場合には、その人の心の中に徐々に入り込み、ゆっくりと時間をかけて醸成しようとしたのではだめだ。心というのはそんなふうに動かない。心の中には一気に入り込まなければならない。
(第3章:心の法則 P35)
既存のカテゴリーや類似のカテゴリーに新しい製品を出す場合、一線を画したイメージを顧客に一気に知覚してもらう必要がある。実際、そのようにものが自社の新製品の中にあるでしょうか、これは自社の中ではどの段階で検討する内容でしょうか。
イーロンマスクのスペースX社は2018年2月に全世界に見れる状態で新型ロケットの発射を中継した。2個のブースターが自動で戻ってくる映像は圧巻で、新しい宇宙産業時代の到来を告げるのに十分すぎるほどのインパクトがあった。
2017年末に楽天は携帯電話事業に参入を表明した。まだ現時点では周波数帯割当に申請した段階ではあるが、国内の大手3社とどのような違いを示すでしょうか。
たいていの人が、自分は他の人よりも認識力が優れていると考えている。
(第4章:知覚の法則 P39)
特に自身の体験に基づいた認識は、より正しい・優れいてるという補正が入り込みやすいので省みる必要がある。この傾向を顧客に向けて考えてみると、製品を体験してもらい良いイメージを植え付けることができれば、強力なものとなる。
更に自分の思いついた意見・アイデアは特別だ、特殊だと考えてしまう傾向がある。たいていの場合、新しくも面白くもなく、ありふれたもので特別ではない。ただその意見・アイデア自体ではなく、その意見・アイデアの何について新しい・面白いと思ったのかは考察する余地がある。
ある商品に関して、自分自身の知覚ではなく、だれか他の人の知覚をもとに購入決定をするのである。
(第4章:知覚の法則 P45)
BtoCの領域では口コミサイトや比較サイトを利用する顧客が普通になっているカテゴリーが多くなっている。逆にそのようなサイトを利用しないカテゴリーはどのようなものか。またBtoBの領域ではどうか。見込顧客が製品を利用・使用している顧客を紹介して欲しいということがあります。それはどのようなカテゴリーの製品でしょうか。また見込顧客はなぜ紹介を要求するのでしょうか。
マーケティングとは商品の戦いではない。知覚の戦いなのである。
(第4章:知覚の法則 P47)
これは製品の性能・品質はどうでも良いと言っているわけではありません。性能・品質ばかりに着目し、それを製品の価値だと考えるのが間違っている。顧客の心の中で価値があると認識されなければ性能・品質が良くても勝てないということです。
新製品を作るときに「(自社:提供する側が考えている)価値の高い製品を作る」以外の戦略がない場合、それは失敗する可能性が大きくなります。また逆に考えると、性能・品質が多少低い部分がある場合でも、マーケティング戦略が有効であれば勝つチャンスがあるとも言えます。この場合、その時点の製品の完成度にこだわらずにチャレンジする価値があるかもしれません。
まとめ
今回は「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」の全体像の紹介でした。
以上
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