今回はサブスクリプションについて考えていきます。
「サブスクリプション」という単語の使われ方
「サブスクリプション」は英語では「subscription」と表記して以下のような意味となります。
- 不可算名詞 寄付(申し込み)
可算名詞 寄付金- 不可算名詞 予約購読; 予約出版
可算名詞 予約(代)金.
この雑誌などの予約購読・定期的な購読からから派生していき、ある有限期間の利用許可のような意味を持つようになり、月額制の課金モデルを含めて使用されるようになっています。
この「サブスクリプション=月額制(特に定額制を強調)の課金モデル」の意味から派生して「サブスクリプション=月額定額制のサービス」として使用していることも多くなっています。「サブスクリプションサービス」と「サービス」を付けて表記することもありますが、単に「サブスクリプション」と表記していることも多いです。
このサービスの代表例としてはSportifyなどの音楽配信サービス、Netflixなどの動画配信サービス、Amazonプライムなどの会員サービスが上げられています。
またこれらのサービスを提供する運用形態や方式つまりビジネスモデルを指して「サブスクリプション」として使用されることもあります。
この記事ではこれらを別けて表記するため以下のように定義します。
単語 | 内容 |
---|---|
サブスクリプション方式 | 有限期間の利用許可の課金モデル |
サブスクリプションモデル | サブスクリプション方式でモノ・サービスを提供しているビジネスモデル |
その他の使われ方
これら以外にTwitterなどではサブスクリプション方式のサービスである音楽配信サービスで、これまで提供していなかったアーティストが配信を開始すると「サブスク解禁」 として表現しています。
サブスクリプション方式について
課金モデルのサブスクリプション方式について考えていきます。ここでは以下のように定義します。
有限期間の利用許可に対して利用料を支払うこと
この定義で一番イメージが湧きやすいのが月額定額制でしょう。一カ月という有限期間の間に一定額を支払うことで提供しているモノ・サービスを何度も利用できる方式です。これが一番定着しているためかサブスクリプション方式=月額定額制と使われていることが多いようです。
またこの月額定額制も利用量などのパラメータによって、支払う料金が変わってくることがあります。SaaSだと利用人数の区分ごとに料金が変わってくるといったものです。他に会員制サービスなどで通常よりも広い範囲のモノ・サービスを提供することでプレミアムとして通常より高い料金になるといったものもあります。
月額定額制以外のサブスクリプション方式を少し考えてみたいと思います。
まず定額制ですが、すべてのモノ・サービスが利用できる範囲ではなく一部は追加料金が発生して定額を超えて料金を支払う必要があるものがあります。オプションサービスといったものがこれに該当します。また一時的に利用するモノ・サービスに対して定額とは別に、その利用料・回数に応じて追加で料金を支払うものもあります。
更に拡大して解釈してみると、定額を支払いつつ毎回利用料・回数に応じて料金を支払うものも広義のサブスクリプション方式と言えるかもしれません。月額制+従量制という形式です。例えばスポーツジムで通常1時間1,000円のところ、月額を支払っている会員にはもっと安く利用できるといったものです。
月という時間に関してもっと短くしたものを考えてみます。今でもありますがスナックなどでは1曲いくらとしていますが、カラオケボックスは1時間、2時間などの間に定額で歌うことができ、サブスクリプション方式と言えます。飲食店の食べ放題・飲み放題も同様に考えられます。
伝統的にサブスクリプション方式のモノ・サービス
サブスクリプション方式は別に新しい方式ではなく、伝統的にそのような方式となっているモノ・サービスはあります。元々の意味である雑誌や新聞の定期購読がまさに該当します。月額定額制に注目すると駐車場、賃貸住宅や生命保険なども該当することになるでしょう。1カ月単位だけだなく3ヶ月や6ヶ月単位もあるバス・電車の定期券もあります。月額制+従量制という形式であれば、電気・ガスなどの公共サービス、携帯電話なども該当してきます。
サブスクリプションモデルについて
ビジネスモデルのサブスクリプションモデルについて考えていきます。
伝統的にサブスクリプション方式となっているモノ・サービスがある中で、昨今サブスクリプションサービスが注目されている背景を考えます。これまでは所有するために料金を支払うという選択肢しかなかったモノ・サービスが、サブスクリプション方式で所有はしないが利用できるようになってきているという大きな流れがあります。「所有から利用へ」というフレーズを聞いたことがある方も多いでしょう。
特に所有するためには高額を支払う必要があったモノ・サービスが、サブスクリプション方式だとかなり安い金額で利用できるようになり、普及してきました。成功事例としてよく挙げられるのがAdobeのCreative Cloudです。それまでのAdobeのソフトウェア製品は高額を支払って所有する必要がありましたが、Creative Cloudによって安い月額で利用できるようになりました。ソフトウェアのサブスクリプション方式は「SaaS:Software as a Service」と呼ばれるようになり普及が進んで一般的になってきています。
特にSaaSが普及していく中で、企業はこれまでのモノ・サービスを販売するモデル(以下、販売モデル)からビジネスの手法が変わってきており、これをサブスクリプションモデルと定義して考えていきます。伝統的にサブスクリプション方式のモノ・サービスはここでのサブスクリプションモデルには含めずに考えます。
サブスクリプションモデルは継続利用がより重要視される
販売モデルの場合、それを販売したときに大きな売上となりますが、サブスクリプションモデルでは販売したときに比べるとかなり小さな売上を時間をかけて積み上げていくこととなります。
またサブスクリプションモデルでは月毎など一定期間での契約となり、顧客からすると止めたくなったらその利用を簡単に停止できるようになります。
このためサブスクリプションモデルでは、顧客が継続して利用すること・解約されないようにすることを重視した運用が求められるようになっています。顧客をファンにして長期利用してくれるような仕組みが必要になっているのです。
業種・業態にもよりますが販売モデルのときも販売後の顧客への対応は重要ではありました。だがサブスクリプションモデルではそれがより重要に、というよりは最重要になっていると言っても過言ではありません。顧客が利用を開始して継続してもらうためには、その利用に対して継続的に対価以上の価値を感じてもらう必要があります。そのためにそのサブスクリプションモデルを進化させていく必要があります。一時の満足度を高めるというよりは長期的な視点で顧客と向き合える運用が組織として機能する必要があるのです。この辺りは「カスタマーサクセス」という形式で説明がされるようになっています。
継続期間が長ければ長いほど顧客からの売上が積みあがることになります。この点でサブスクリプションモデルではストック型のビジネスと言われます。解約率が上がることはブスクリプションモデルでは致命的になるため、解約率を下げる施策に対して先行投資されるようになってきます。
例え提供開始の段階で赤字だったとしても、解約率が低い場合は顧客数が一定以上になれば規模の経済が働き一般的に黒字になります。このため顧客の増加率が高い有望なサブスクリプションモデルのビジネスの場合、売上が小さかったり赤字であったとしても資金が投下される例があります。ファイナンスの観点からも販売モデルとサブスクリプションモデルでは考え方が違ってきています。
また売上が積みあがると表記してきましたが、提供する側の価格の設定が難しいのもサブスクリプションモデルの特徴の一つです。提供価格に加え、累積の顧客数、増加する顧客数、解約率から売上高が決まっていきます。そこに提供するのにかかる原価を差し引き、そこから顧客獲得のために投入できる費用の上限が決まっていきます。サブスクリプションモデルでは提供価格がこのような形で企業活動に影響していきます。
価格の設定は難しいですが、初期に設定した価格をそのまま維持しなければならない訳ではありません。サブスクリプションモデルで長く継続提供している場合、何回か価格設定を変更している方が多いと思われます。価格設定の変更は単純な値上げだけでなく、顧客のニーズに合わせて細分化した価格モデルにしたり一部を安く提供したりして顧客獲得の手段として行っているところもあります。
サブスクリプションモデルでは内容の進化が鍵となる
サブスクリプションモデルでは継続利用が重要で、継続的に対価以上の価値を感じてもらう必要がある、進化していく必要があることを述べました。
月額定額制の場合で考えてみますと、毎月同じ金額を顧客は支払うことになります。提供するモノ・サービスの特性にもよりますが、毎月全く同じ内容を提供していると顧客は初期に感じていた価値よりも時系列共に低下していく傾向にあります。一般的にテクノロジーの進化に取り残されてしまったり、他の類似サービスが充実し始めると相対的に価値が下がっていきます。
継続的に価値を感じてもらうために、提供する内容を拡大したり、顧客に合ったサービスを充実させたり、提供価格を変更したりすることで対応していく必要があります。これらの施策を通じて内容を進化させることで顧客の継続利用を促していきます。
音楽配信、動画配信のコンテンツ系のサービスの場合は構造的に内容が進化するサブスクリプションモデルです。顧客にとっての価値の一つはコンテンツの充実ですが、これらのサービスは新しいコンテンツが継続的に追加されていき累積してきますので、この部分を解決できる構造になっています。今後も市場は大きくなりそうですが、顧客は同種のサービスに乗り換える可能性があるので、顧客獲得争いが厳しい世界と考えられます。
SaaSの場合は提供するソフトウェアを継続的にアップデートして顧客の望む機能を提供することで内容を進化させていきます。ソフトウェアの販売モデルでは行いにくかったアップデートが、SaaSにすることで簡単に顧客に最新の機能を提供できるようになりました。ソフトウェアのサブスクリプションモデルはこの点が特に優れており、SaaSとして広まっていっており、これからは販売モデルよりサブスクリプションモデルの方が優勢となっていくと思われます。
伝統的にサブスクリプション方式のモノ・サービス以外では、このような内容の進化が重要となっています。
コンテンツ型、ソフトウェア以外でサブスクリプションモデルが成功するか
サブスクリプションモデルと相性の良い例としてコンテンツ型とソフトウェアを制つめいしましたが、その他のモノ・サービスでは成功するでしょうか。
ここでは以下の本を参考にして一部紹介したいと思います。
高級バックの借り放題のラクサステクノロジーズ「ラクサス」、洋服借り放題のストライプインターナショナル「メチャカリ」、定額制スーツのレナウン「着るダケ」、腕時計のクローバーラボ「KARITOKE」、月額飲み放題の金の蔵「プレミアム飲み放題定期券」、月額制ビールのキリンビール「ホームタップ」、家具のsubsclife「subsclife」、コンタクトレンズのメニコン「メルスプラン」、新車の月額制のトヨタ自動車「KINTO」などが紹介されています。
主に個人向けのサービスです。この中でメニコン「メルスプラン」は2001年から開始していて連結売上高の約半分を売り上げているとのことで既に成功している事業です。
またサブスクリプションモデルの専業か販売モデルと並行している事業かでの違いもあります。専業の場合はそのサービスのみに専念できますが、販売モデルなどの既存事業と並行している場合はそのサブスクリプションモデルとどのようにしていくかでとる手段が変わってきます。
継続的に対価以上の価値を感じてもらえる、進化できるようなサブスクリプションモデルであるかという視点で見るとどうでしょうか。例えばキリンビール「ホームタップ」はビールサーバーを貸し出し定期的にビールを届けるというモノです。追加でビールを頼むこともできるようです。美味しいビールも徐々に慣れてくると満足度が下がっていきそうな気がします。ビールの種類を増やすといったことはやっているようですが、それだけで継続するかというと微妙な気がします。ビールは夏場の方が消費量が多いでしょうから、継続しているユーザには夏場は追加ビールを安く提供するといったことも考えられます。ただこれも継続するには弱いと思うので更なる進化が必要に思います。
どのような施策によってサブスクリプションモデルを進化させていくか、色々な事業を参考にして見ていくことが必要となりそうです。
まとめ
今回はサブスクリプションについてでした。
以上